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名古屋高等裁判所 昭和43年(ネ)970号 判決 1970年2月27日

第一審原告 (第九二六号控訴人 第九七〇号被控訴人) 高岡美智子

右訴訟代理人弁護士 水口敞

同 棚橋隆

第一審被告(第九二六号被控訴人) みなみタクシー株式会社

右代表者代表取締役 小早川唯一

右訴訟代理人弁護士 鈴木新吉

第一審被告 (第九二六号被控訴人 第九七〇号控訴人) 伊藤保弘

右訴訟代理人弁護士 三宅厚三

主文

第一審原告の控訴に基き原判決をつぎのとおり変更する。

第一審被告伊藤保弘は、第一審原告に対し金一、三〇六、七〇〇円およびこれに対する昭和四三年四月四日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第一審原告の第一審被告伊藤保弘に対するその余の請求および第一審被告みなみタクシー株式会社に対する請求を棄却する。

第一審被告伊藤保弘の控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ、第一審原告と第一審被告伊藤保弘との間に生じたものは、これを五分し、その三を第一審被告伊藤保弘の、その二を第一審原告の各負担とし、第一審原告と第一審被告みなみタクシー株式会社との間に生じたものは、これを第一審原告の負担とする。

この判決は、主文第二項につき、仮りに執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、請求原因事実中、第一審原告主張の日時、場所において、同原告が乗客として、訴外笹岡豊運転の乗用自動車(名五く、六八―五六号、A車と略称する。)と、第一審被告伊藤保弘所有、運転にかかる自家用乗用自動車(愛五も、三八―八三号、B車と略称する。)が衝突し、これがため第一審原告が負傷したこと、第一審被告みなみタクシー株式会社がA車を保有し、これを運行の用に供していたことは、第一審原告と第一審被告らとの間において争いがない。

二、第一審被告らの責任

(一)  第一審被告伊藤保弘の責任

第一審被告伊藤保弘が前記のごとくB車の保有者であって、これを自己のために運転中に本件事故を惹起したのであるから、同被告は、第一審原告に対し本件事故により同原告の被った損害を賠償すべき義務がある(自動車損害賠償保障法三条)。

(二)  第一審被告会社の責任

(1)  第一審被告会社は、前記のごとくA車を保有し、これを運行の用に供していたものである。

(2)  そこで、第一審被告会社の免責事由の主張について判断する。

本件事故の状況・態容については、当裁判所の認定によるも、原判決理由欄「二、被告らの責任、(二)被告会社の責任(2)(ロ)」における説示のとおりであるから、ここに右記載を引用する(但し、右(ロ)の第一段落中「しかも無灯火のまま」とある部分を削除する。)。≪証拠判断省略≫

(3)  本件交差点は、右認定のごとく、交通整理も行われていない、しかも左右の見とおしの悪い場所であり、また仲田本通りは車道幅員約九メートル(なお、道路両側に各三メートルの歩道が設置されている。)、水道路(地下に水道管の幹線が敷設されているところから俗に水道路という)の車道幅員は約六メートル(尤も、≪証拠省略≫によれば、右車道の南側に幅員六・五メートルの歩道があるが、その部分の地下に水道管が敷設してあり、右歩道は車道より一段高く区画されており、且つ舗装されていない通路である)である以上、前者の方が後者に比して明らかに広いものと解せられるから、水道路を進行して本件交差点に進入しようとするB車の運転者たる第一審被告伊藤保弘は、道路交通法三六条二項により徐行義務があるのみならず、広い仲田本通りから本件交差点に進入しようとする訴外笹岡豊運転にかかるA車の進行を妨げてはならない義務があるしだいである(道路交通法三六条三項)。

(4)  ところが、前記認定事実によれば、第一審被告伊藤保弘は時速三〇キロメートルの速度を持続したまま本件交差点に進入したものであって、その間に右交差点の入口に一時停止の標識が設置されていたにもかかわらず、これを無視して一時停止も行なわなかったのみならず、道路交通法三六条による前記徐行義務およびA車の進行妨害避止義務をともに尽さなかったことの過失により本件事故を惹起せしめたものと解するを相当とする(本項(二)参照)。

(5)  右認定のごとき事情のもとにあって、訴外笹岡豊の本件事故に対する過失の有無について検討するに、広路たる仲田本通りを進行するA車の運転者訴外笹岡豊は、道路交通法三六条二項に基く徐行義務を負わないことは言うまでもないが、同法四二条による徐行義務をも免除されるものと解すべきであるから、前記認定のごとく同訴外人が時速四〇キロメートルで本件交差点に進入しこれを通過しようとしたことは、そのこと自体同訴外人に過失があったとすることはできず、更に本件事故の発生時間が深夜であって歩行者もほとんどなく本件交差点における交通事情は閑散であったものと窺われること、叙上のごとき事故現場の道路関係等諸般の事情を勘案すれば、右訴外笹岡豊においては本件事故の発生につき過失があったものということはできない。

(6)  なお、右訴外笹岡豊運転にかかるA車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったとの第一審被告会社の主張事実は、第一審原告において明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなす。

以上のしだいで、第一審被告会社の免責事由の主張は理由があるから、その余の点の判断をまつまでもなく、第一審原告の同会社に対する請求は失当であって棄却を免れない。

三、本件事故により第一審原告がその主張のごとき傷害を受けたことは、第一審原告と第一審被告伊藤保弘との間において争いがないところである。

そして、原審における第一審原告本人尋問の結果によると、同原告は、右傷害による左膝関節炎のため同局部に水がたまり、腫脹や疼痛のため治療を継続していたことが認められる。

四、第一審原告の被った損害について。

第一審原告の被った損害およびその受領した自動車損害賠償責任保険金の支払充当に関する点については、当裁判所の判断によるも、原判決理由欄「四 原告の受けた損害」および五において説示されているとおりであるから、ここに右記載を引用する(但し、「(二)昭和四三年三月三一日から昭和四四年三月三〇日までの間に得べかりし利益喪失による損害金」の次に「五二六、三六一円」とあるを、「五四〇、〇〇〇円」と訂正し、「右の期間内における逸失利益を……」とある部分から「……計算すると五二六、三六一円となる。」とある部分までを削除する。)。

五、よって、第一審原告の本訴請求は、第一審被告伊藤保弘に対し第四項の損害の合計額から同項の金一〇六、九〇〇円を控除した金一、三〇六、七〇〇円およびこれに対する遅滞後である昭和四三年四月四日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲内で理由があるからこれを認容し、第一審被告伊藤保弘に対するその余の請求は失当であるからこれを棄却すべきである。

六、以上のしだいで、当裁判所の右判断と一部結論を異にする原判決は、民訴法三八六条に則りこれを変更し、第一審被告伊藤保弘の控訴は理由がないから同法三八四条一項に則りこれを棄却するものとし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤淳吉 裁判官 井口源一郎 土田勇)

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